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「そわそわ、もじもじ」 ADHDについての研究指導員 八重樫智子
目 次
まえがき 明朗塾のお客様を支援するようになり、私もやっと1年たったところであるが、以前から私が興味を持っているところはお客様の保護者に関してである。興味のポイントは障害者の子供をどのように子育てしてきたのか。保護者の方々の経験や努力についていろいろ話を聞いてみたいと思っている。しかし実際私は今までのところ保護者の方々と接する機会はあまりなく、保護者会の個別相談と、家庭訪問した際に支援についての話し合いをした程度である。もちろん今後も人様の育児の話など立ち入ったことであるので、聞く機会はないと思われる。そこで自分なりに資料を集めたところ、また新たに興味を引くものが見つかった。「自分の子供が同年齢の子供と比べて落ち着きがなかったら。」「自分の子供が不自然な行動ばかりしていたら。」「自分の子供がもしかしたら障害をもっているのでは ・ ・ ・?」
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第2章 ADHDと近接の障害1 ADHDに似ている病態多動や衝動性があったり、注意力や集中力に問題があっても一概にADHDということはできない。ADHDと間違えやすい病態があるからである。医師は診断するのに細心の注意を払って障害を見極めなければならないのである。 視覚、聴覚障害 目や耳の障害があると、言われたことを理解したり、周囲の様子を把握するのが困難になり、交友や学習に障害を来たすことがある。このような子供は、混乱や落ち込みによって、行動や情緒の不安定に陥る場合がある。はた目には注意散漫で学習能力に欠けるという印象を与えることにもなり得る。聴覚障害の子供には落ち着きのなさ、依存性、攻撃性のような症状、聾の子供にはこのほかに脳性麻痺、視覚障害、認知発達の遅れなどが見られたりする。そして、視覚障害の子供には発育の遅れが見られ、さらに学習障害や脳性麻痺などの障害を併せ持っている場合が多く見られる。特に小さな子供は視覚がないことからくる不安や退屈のため、人との関わりを拒んだり、自分自身に刺激を与える行為(手をたたいたり、体をゆすったりというような動き)がよく見られる。ADHDの症状と似ているところがあるが、ADHDかどうかは医師の診断してもらわなければならない。また実際このような子供の中にはADHDのような障害を合併していることもある。 てんかん発作 一般にADHDとてんかんの症状は似ていることはないが、ある種のてんかんの治療のために用いられる抗けいれん薬、特にフェノバルビタールなどの古い薬の中には大きな副作用があり、過活動、苛立ち、抑うつなどの症状が表れたりする。また、カルバマゼピンやバルプロ酸ナトリウムなどは、覚醒状態、集中力、注意力などに影響を及ぼす場合がある。 小発作は瞬間的に意識を失い、ぼーっと宙を見つめた状態になるため、注意が散漫な印象を与える。小発作は子供によっては一日80〜100回起こりその間の記憶は欠落する。そして体が硬直するといった大発作の場合は、はっきりした意識の欠落が起こり、発作後には眠くなったり気分がすぐれないといった状態が続く。時には数日にわたって発作の影響が残り、この期間は注意力を持続するのが大変難しい。 栄養不良 脳の成長が最も著しいのは、胎児初期から生後12ヶ月までの間であり、栄養不良が脳に与える影響が最も心配されるのは、1歳までの時期である。普通考えられるのは食べ物の不足のためではなく、栄養のバランスが悪い場合や、口腔運動機能障害(物を食べる筋肉をうまく協調させることができない障害)である。生後1年の間に成長が遅れた子供は、その後の発達や学習障害を抱える場合が多く、情緒障害や行動障害が起こる率も高くなる。 睡眠障害 毎日きちんと睡眠がとれないと、子供は集中力を失い、学習や物事に意欲を持ったりするのが困難になる。また、いらいらしたり、怒りっぽくなったり、元気がなくなる場合もある。子供の異常な行動が睡眠不足であるのか、または隠れている障害があるのかきちんと見極めることが大切である。 処方薬の副作用 処方薬や違法に使用される薬物の中には、ADHD様の副作用が表れるものが多い。先述したてんかん発作の治療に使用する抗けいれん薬は、注意力や集中力の低下、苛立ち、思考障害などであり、アミトリプチリンなどの抗うつ薬は、鎮静作用のため眠気を催し、長く集中できず、気が散りやすくなったように見える場合がある。また、喘息の治療に使用されるサルブタモールは、服用の量が多すぎると神経が高ぶって不安症状を示すことがある。 2 ADHDと間違えやすい、または合併が見られる精神障害ADHD、LD(学習障害)、自閉症などは脳に何らかの原因がある障害という点で共通しているが、脳波やCTスキャンでは特に異常が見られるわけではない。それぞれが違う診断基準に当てはまるかどうかで診断されるのである。また、ADHDの子供の中には成長にしたがって診断名が「自閉的傾向のADHD」や「アスペルガー症候群」などと変更されることもある。 自閉症スペクトラム(自閉症・アスペルガー症候群ほか) 自閉症の概念はアメリカの児童精神科医のレオ・カナーが1943年に「情緒的接触の自閉的障害」を英語で発表し、翌年「早期幼児自閉症」と命名したのが最初である。その一方オーストリアの小児科医のハンス・アスペルガーが1944年に「子どもの自閉症精神病質」をドイツ語で発表した。しかし、カナーの報告のほうが一般的に広まり、アスペルガーの報告が注目されるようになったのは、彼が亡くなった翌年1981年にイギリスの自閉症研究者のローナ・ウイングという女性が「アスペルガー症候群」という論文を英文誌で紹介されてからである。以降、アスペルガー症候群と区別する目的でカナーの自閉症のことを古典的自閉症、あるいはカナー症候群と呼ばれるようになった。 LD(学習障害) LD(Learning Disabilities)は教育用語である。基本的には知的な遅れはなく、中枢神経系に何らかの障害があると推定される。特徴として、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの修得と使用に著しい困難がある状態である。 トゥーレット症候群 DSMによるとトゥーレット症候群とは、ほぼ全身に出現する多彩な運動性チックと音声チックが頻発する状態である。チックとは突発的で早い動きまたは短い発声で、繰り返し認められ、チック症の重症型をトゥーレット症候群と呼んでいる。 反抗挑戦性障害 反抗挑戦性障害はDSM−IVによって医師が診断する。ADHDの子供のごく一部に小学校高学年になってむしろ問題行動が多くなってしまうことがある。親や教師といった大人に反抗して言い争ったり、故意に他人をいらだたせたり、自分の過ちを人のせいにしたり、いつまでも恨みを抱いたりするなどである。これはただ単にADHDそのものから生じているのではなく、周囲の不適切な対応とADHDの衝動性が関係し合って二次的に生じていると考えられ、早急に専門機関への相談や医療機関の診断を受けさせるべきである。この段階で症状を止めておかないと、子供の将来が大きく左右されることになり得る。 行為障害 行為障害についてもDSM−IVによって医師が診断する。反社会的、攻撃的、反抗的な行為が反復的、持続的に見られる障害で、行為障害が見られる子供や青年は特に読み書きの障害があるケースが多く、ADHDの症状によく似ている。 3 ADHDの二次障害を防ぐADHDの子供はADHDでない子供と比べて、思春期になると特に非行や不登校、いじめ、家庭内暴力、ひきこもりなどの二次障害の発生率が高いと言われている。これは周りの人間の対応や環境が適切でなかったためと考えられている。 ADHDの子供は幼児の頃から周りの人間が困るようなことをたくさん起こすので、注意や叱責を受け続けている。しかし本人にはその自覚がないため、叱責されることが理解できず、反省どころか反抗するようになってしまうことになる。また、親や教師、あるいは友達に認められず、自信を失い、自己評価がとても低くなるという場合が多く見られる。そのような積み重ねが、思春期になると一気に吹き出すようになると考えられる。 ADHDで最終的に問題となってくるのは、落ち着きがないことよりも、情緒の面である。ADHDの子供に関わっている人間は、その子供の自尊感情や自己評価を下げないよう配慮すべきである。 |
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第3章 医学的治療1 薬は飲むべきなのか 私はもともと薬というものはあまり好きではない。頭痛や腹痛や風邪は寝れば治ると思っている。仕事に支障がある場合に仕方なく服用するといった具合いである。うちの家族でも薬を服用するといったことはあまりなく、家庭の置き薬は一向に減らない。病院にもあまり行くことはない。以前、私が明朗塾に勤めはじめて間もない頃、お客様の質問で、「八重樫先生は、どこの病院行ってるの?」と言われたことがあった。私が「どこにも行っていません。」と返答したところ、そのお客様は目をまん丸くさせ、「え?」と、とても驚いていた。まるで、病院に行っていない人間のほうがおかしい、あるいは病院に行っていない人間に初めて会った、というような反応であった。私も同時にとてもショックを受けた。お客様の話では、みんなかかりつけの病院を持ち、そして薬を服用することが当たり前になっているということであった。 2 リタリンとは何か 普通、ADHDの特徴の多動や落ち着きのなさを考えると、効果がある薬としては興奮を抑える鎮静剤や睡眠効果のある薬と思うのではないだろうか。ところがADHDの子供にそれらを投与しても、多動や注意欠陥症状は改善されない。ではどうするか。とても不思議なことに、一般的には神経を興奮させる働きのある中枢神経刺激剤がADHDの子供に効くのである。 3 リタリンを飲むとどうなるか リタリンは錠剤(10mg)か粉末で調剤され、通常錠剤を切って半分の量から始め、徐々に増やしてその子供に最も効果がある量を見つける。リタリンは、服用するとすぐに吸収され、血液中に移行し脳に運ばれる。そしてリタリンは体の外に排泄されるのも早く、通常血液の中で有効な濃度が持続するのは、3〜4時間くらいである。 4 リタリンに副作用はあるのか アメリカでは、全世界のリタリン生産量の90%を消費していると言われている。すでに20年以上にわたって、多くのADHDの子供たちがリタリンを飲み続けているが、大きな副作用は報告されていない。リタリンはとても安全で有効な薬であるという考えが定着している。 |
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第4章 非薬物療法1 子供も親も悩んでいる ADHDの子供は、人に迷惑をかけるといった特別な問題行動以外には、普通の人となんら変わりはない。普通の人と同じように考えたり、夢や希望を持っている。しかし、普通の人と違うと言われたり、悪口を言われたり、あるいは教師に面と向かって怒鳴られたりして、心に傷を持って生きている場合が多くあると思われる。なぜ周りの人たちが自分に対してそうなのかが理解できなくても、人に嫌がられているということは感じているはずである。また、ADHDの子供と何年も暮らしていると、親にも影響が出てくると思われる。子供と一緒にいるといらいらさせられたり、反抗されたりして毎日とても神経を使っているであろう。 2 世界各国で実施されている行動療法以下に有名な3つの行動療法を挙げる。行動療法は薬物療法と組み合わせると、とても効果が上がることが今までの研究で明らかになっている。 ABC分析と正の強化 行動療法では、思考、感情、行動、そして周囲で起こる出来事がどのように結びついているかを理解させるのがポイントであり、子供の実際の生活の中で学んでもらう。自分のした行動が、そのあとに起こることに影響しているということが解るようにさせるのである。 【ABC分析】 親は子供の良くない行動について記録する。まず、良くない行動の前に何があったか。そして子供が何をして、何を言ったか。それから誰がそこにいて、一日のうちいつ、どこで起こったのか。またそのような行動は頻繁に起こるのか、どの程度深刻か、そしてどのような対処をしたのかなど、その状況を詳しく心理療法士に伝える。ときには親の対応の仕方が間違っている場合もある。例えば、良くない行動から意識をそらすために、親が良かれと思って子供の興味があるものを与えてしまうことは、間違いである。子供にとっては、良くない行動をしたらいいものがもらえると勘違いしやすいからである。または来客があった時に、子供がおかしなことをお客様に言ったり、うるさくした場合に、部屋でゲームをすることが好きな子供に対して、部屋でゲームでもしていなさいと言うのも間違いである。 【正の強化】 子供のあらゆる行動は、結果が自分の利益になる場合に頻度が高まったり、程度が強まったりする。この心理を利用して、より良い行動をするよう教え込むことが必要である。
この方法を成功させるには、心理療法士との連携が必要である。親は何度でも心理療法士に報告しなければならない。また、効果があまり見られない、もしくはこの方法を実行してみたら良くない行動の回数が増えたと言って、途中で諦めないこと。ひと段落するまで根気よく続けることが肝要である。 トークンエコノミー トークンとはおもちゃのコインのようなもののことで、トークンエコノミーという方法は、家庭でも学校の教室でも行うことができる。この方法は、まず前もって良い行動と良くない行動を指定し、それぞれの行動に点数を付けておく。例えば、宿題を提出できた→100点、課題を完成できた→100点、花に水をやった→20点、または他人にちょっかいを出した→−10点、けんかを始めた→−50点といったように決めておく。そして、各行動が見られたらトークンを渡したり、または返却したりする。トークンはコインではなく紙のカードでもよい。この方法は、ADHDの子供に対してだけではなく、クラスの生徒全員で行った方が良い。たまったトークンの総数はクラスのみんなが分かるように教室に掲示し、一定のトークンがたまったら、ちょっとしたプレゼントや、好きな係りを一日やってもよい権利、動物にえさを与える権利のような特典と交換することができるようにする。 タイムアウト法 タイムアウト法は、良くない行動をした場合の対処法である。不注意で失敗した場合には使わず、例えば人をたたく、悪口を言う、物を壊す、大声で泣きわめく、動物をいじめるなどである。親、または教師が何度か注意しても止めなかった場合に、「タイムアウト!」と宣告し、決められた一定時間、決められた安全でかつ退屈な場所に子供を隔離する。タイムアウトの宣告と同時に時間を測定し始め、直ちに隔離し、だいたい5分程度じっとしていなければならない状況にする。その間誰もその子供と口をきいたりしてはいけない。とにかく、その子供にとって「退屈で早く抜け出したい」と思わせる状況でないと効果が現れないのである。しかし、あまり頻繁にこの方法をとると、次第に効果が薄れてしまう場合もある。 3 ADHDの子供に対して最も大切なこととは 治療の形態にかかわらず、ADHDの子供に対して最も大切なことは、常に希望を持ち続けて諦めないことである。ADHDの子供を持つ家族はたいてい、思い出したくもないような失敗や、周りの人間からの拒絶、そして自分の無力感を嫌というほど味わっていると思われる。諦めたいと思っている親もいるであろう。しかし、診断が始まった瞬間から「今から子供を助けるのだ!」という強い信念を持って、子供の支援をしていかなければならないのである。 |
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あとがき 私が通っていた小学校には特別学級があり、普通学級とは違ったカリキュラムで過ごしていたため、実際に障害がある子供と関わる機会はなかった。今回のレポートでひとつ残念なことは、私が障害者と関わった体験談を書くことができなかったことである。しかし、書物を通じてADHDやそれに関連する障害について少しは知識が身に付き、他の障害も勉強してみようという意欲が湧いた。 |
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参考文献『ADHD注意欠陥・多動障害 親と専門家のためのガイドブック』 『Dr.サカキハラのADHDの医学』 『高機能自閉症・アスペルガー症候群入門』 『教育現場における障害理解マニュアル』 『ADHD及びその周辺の子どもたち』 |
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