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「そわそわ、もじもじ」 ADHDについての研究

指導員 八重樫智子

目     次
まえがき
第1章 ADHDとは
1 ADHDが顕在化するのは、学校に入ってから
2 多動の子供は昔からいた
3 ADHDはどの国でもいるのか
4 DSM−IV とICD−10の違いについて
5 ADHDはさらに細分類できる
第2章 ADHDと近接の障害
1 ADHDに似ている病態
2 ADHDと間違えやすい、または合併が見られる精神障害
3 ADHDの二次障害を防ぐ
第3章 医学的治療
1 薬は飲むべきなのか
2 リタリンとは何か
3 リタリンを飲むとどうなるか
4 リタリンに副作用はあるのか

第4章 非薬物療法

1 子供も親も悩んでいる
2 世界各国で実施されている行動療法
3 ADHDの子供に対して最も大切なこととは

あとがき

参考文献

まえがき

 明朗塾のお客様を支援するようになり、私もやっと1年たったところであるが、以前から私が興味を持っているところはお客様の保護者に関してである。興味のポイントは障害者の子供をどのように子育てしてきたのか。保護者の方々の経験や努力についていろいろ話を聞いてみたいと思っている。しかし実際私は今までのところ保護者の方々と接する機会はあまりなく、保護者会の個別相談と、家庭訪問した際に支援についての話し合いをした程度である。もちろん今後も人様の育児の話など立ち入ったことであるので、聞く機会はないと思われる。そこで自分なりに資料を集めたところ、また新たに興味を引くものが見つかった。「自分の子供が同年齢の子供と比べて落ち着きがなかったら。」「自分の子供が不自然な行動ばかりしていたら。」「自分の子供がもしかしたら障害をもっているのでは・・・?」
 今回のレポートは子供に焦点を当て、脳に何らかの障害があるADHDの子供に関して研究してみたいと思う。


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第1章 ADHDとは

1 ADHDが顕在化するのは、学校に入ってから

 幼稚園では、ほとんどの子供が騒いだり、歌ったり踊ったり、先生にまとわりついたりして思い思いの行動をとっている中、静かに遊んだりしている子供の方が少なかったように思われる。しかし小学校に上がると年齢的に分別がつき始め、行動は次第に落ち着き、自分の席について授業を受けることが身についてくる。そのため幼稚園の頃とは逆に、落ち着きがない子供の方が少なくなってくる。その中でもひときわ目立って罪悪感も持たずに、やりたい事をしている子供がいる場合がある。授業と無関係に席を離れたり、窓の外など周囲の刺激に気を取られ、注意が散漫になるなどである。しかしそれでもこのようなことは普通の子供にも当てはまる行動と言えなくはない。ではどこからが障害なのであろうか。その境目を文章として明確に表した基準が、アメリカ精神医学会によるDSM−IVに記されている。その基準に当てはまる子供をADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)、日本語では「注意欠陥/多動性障害」という。そしてもう一つWHO(世界保健機関)による「国際疾病分類第十版」(ICD−10)がある。ICD−10には「多動性障害」とあり、特にイギリスの精神科医の間で患者の診断に好んで用いられている。

2 多動の子供は昔からいた

 教室で席につき、集団で授業をするという教育形式をいち早く定着させたのはイギリスである。そして、100年以上前から教室で落ち着きがなく動き回る子供がいることに、教育関係者や医師が注目した。1899年イギリスのクラウストンは、こういった子供のことを「多動の子供」と呼び、大脳皮質の機能に障害があるのではないかとの見解を明らかにした。
 そして極端な落ち着きのなさ、多動といった行動パターンが大脳の機能障害によるものであろうという考えを定着させるきっかけとなったのは、1917年と1918年にアメリカで大流行した脳炎である。脳炎にかかり、命を取り留めた子供たちが、性格変化や認知障害のような症状に加えて、落ち着きがなく動き回る多動の症状を現したのである。
 1930年代になると複数の医師が多動の子供についての報告を相次いで発表した。そして偶然発見された大脳刺激剤が多動を抑える効果があるという事実により、ますます多動の原因が脳にあるという考えを強固なものにした。1934年に、子供の頭痛を治すために血圧を上げる作用のある脳刺激剤を使用していた医師が、脳刺激剤が頭痛を訴えていた多数の子供たちの多動傾向を抑える効果を持っていることに偶然気づいたのである。

3 ADHDはどの国でもいるのか

 さて、このような落ち着きがない子供は世界的にみてどの国にもあてはまる状況であるのだろうか。イギリスやアメリカといった西洋先進国だけに見られる特殊な状況なのか。この疑問は落ち着きのない多動の子供の研究がなされている中、実際のところ世界的な状況についてはわからない状態であった。それは、はっきりとした世界共通の診断の基準が無かったためである。
 世界中の研究者が納得する診断基準を作り上げたのは、主にアメリカの精神科や心理の研究者たちであった。1952年にアメリカ精神医学会が「精神疾患の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders :DSM)を発表したが、多動については1968年の第二版からであり、またさらに改訂をし、1980年の第三改訂版(DMS−III)の診断基準が、世界中多くの研究者をほぼ満足させるものであった。そしてこの診断基準とWHOのICD−9(International Classification of Diseases:ICD)を使って、世界各地でDSM−IIIでいうADHDの子供がどのくらいいるのか、調査が行われた。その結果は以下の通りである。

年度

対象年齢

頻度(%)

ADHD

ADD

PH

スウェーデン

1982

6〜7

2

アメリカ

1985

9

14

2

2

中国

1985

4〜7

5.8

ニュージーランド

1987

11

6.6

1

4.4

プエルトリコ

1988

4〜16

9.5

カナダ

1989

4〜16

6.3

1.4

0.5

イギリス

1991

6〜7

17

1.5

9

〈表〉「多動性障害」の頻度についての疫学調査結果

ADHD=注意欠陥多動性障害/ADD=多動を伴わない注意欠陥障害/PH=多動が主体。
DMS−III 以外の診断基準ではADHDとADDを分けているものもあるため、このようになった。
(『Dr.サカキハラのADHDの医学』榊原洋一著より引用)

日本でもDSM−III を診断基準として、ADHDと診断される子供がどのくらいいるのか、調査を行い、その頻度は3%前後であることが明らかになっている。

4 DSM−IV とICD−10の違いについて

 現在はアメリカ精神医学会のDSM−IVとWHOのICD−10が診断に使用されている。両者は似たような内容の記述がなされているが、見落としてはならない重要な点がある。それは診断を行うのに必要な症状の表現や数が違うということ、そして症状の程度に差があるという点である。

DSM−IV の注意欠陥・多動性障害(1994年)

A.(1)か(2)のどちらか:

 (1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヵ月以上続いたことがあり、

その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:

 不注意

  a 学業,仕事,またはその他の活動において,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な過ちをおかす。
b 課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。
c 直接話しかけられた時にしばしば聞いていないように見える。
d しばしば指示に従えず,学業,用事,または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)。
e 課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
f (学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う。
g (例えばおもちゃ,学校の宿題,鉛筆,本,道具など)課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
h しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。
i しばしば毎日の活動を忘れてしまう。

(2)以下の多動性−衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヵ月以上持続したことがあり,その程度は不適応的で,発達水準に相応しない:

多動性

  a しばしば手足をそわそわと動かし,またはいすの上でもじもじする。
b しばしば教室や,その他,座っていることを要求される状況で席を離れる。
c しばしば,不適切な状況で,余計に走り回ったり高いところへ上ったりする。(青年または成人では落着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない)。
d しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
e しばしば゛“じっとしていない”またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する。
f しばしばしゃべりすぎる。

衝動性

  g しばしば質問が終わる前にだし抜けに答えてしまう。
  h しばしば順番を待つことが困難である。
  i しばしば他人を妨害し,邪魔する(例えば,会話やゲームに干渉する)。

    B.多動性−衝動性または不注意のいくつかが7歳未満に存在し,障害を引き起こしている。

    C.これらの症状による障害が2つ以上の状況において(例えば,学校〔または仕事〕と家庭)存在する。

    D.社会的,学業的または職業的機能において,臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならない。

    E.その症状は広汎性発達障害,統合失調症,またはその他の精神病性障害の経過中のみに起こるものではなく,他の精神疾患(例えば,気分障害,不安障害,解離性障害,または人格障害)ではうまく説明されない。

    (『ADHD及びその周辺の子どもたち』尾崎洋一郎・池田英俊・錦戸惠子編より引用)

    ICD−10の多動性障害研究用診断基準

    G1.家庭内にみられる注意および活動の明らかな異常であり,その小児の年齢や発達段階からみても次の(1)と(2)がみとめられること。

    (1)次の注意障害のうち,少なくとも3項目が存在すること。

      a 自発的活動性の持続が短い。
      b 遊戯活動を完了する以前に止めてしまうことが多い。
      c 次から次に活動が替わってしまう。
      d 大人から与えられた課題に対して著しく持続性を欠く。
      e 学習中,例えば宿題や割り当てられた読書などに,著しい注意力の散漫がみられる。

    (2)次の活動性の障害のうち,少なくとも2項が存在すること。

      a 絶え間なく続く落ち着きのなさ(走り回ったり,飛び回ったりなど)。
      b 自発的な活動中,著しく過度にもじもじし,そわそわする。
      c 比較的温和にしているべき状況で,特に過度に動きが多い(例:食事時,旅行,訪問,教会)。
      d 座ったままでいるべき時に座っているのが困難。

    G2.学校や保育所で(該当することなら)みられる注意および活動の明らかな異常であり,その小児の年齢や発達段階からみても次の(1)と(2)がみとめられること。

    (1)次の注意障害のうち,少なくとも2項が存在すること。

      a 課題に対する過度の持続性の欠如。
      b 著しく顕著な注意力の散漫,即ちしばしば外的な刺激に向いてしまう。
      c 選択が許されている時,幾つかの活動間をかなり頻繁に変わること。
      d 遊戯活動における持続が極端に短いこと。

    (2)次の活動性の障害のうち,少なくとも2項が存在すること。

      a 自由行動が認められた状況下で,著しく過度にもじもじし,そわそわする。
      b 作業中,作業を離れる動きが過度なレベルでみられる。
      c 座ったままでいるべき時に席をかなり頻繁に離れる。

    G3.直接的に観察される注意あるいは活動の異常。これは,その小児の年齢や発達段階からみても,過剰なものでなければならない。以下に述べる項のいずれかがみられること。

    (1)上記の基準G1項またはG2項の状態が直接的に観察されること。即ち,単に親や教師の情報によるのではないこと。

    (2)家庭外や学校外といったところ(例:診察室や検査室)で,運動における活動性の異常さや課題作業から離れた行為における異常さ,または活動を持続させることにおける欠如が観察されること。

    (3)注意力に関する心理検査において,明らかな作業能の障害を見ること。

    G4.広汎性発達障害(F84)・躁病性(F30)やうつ病(F32)の気分障害,または不安障害の診断基準を満たさないこと。
    G5.6歳以前の発症。
    G6.少なくとも6ヵ月間の持続。
    G7.IQは50以上。

    (『Dr.サカキハラのADHDの医学』榊原洋一著より引用)

     DSM−IVとICD−10の診断基準はこうした違いがあるため、どちらの基準で判断するかによってその後の治療法も違ってきてしまうおそれがある。これまでの例ではDSM−IVに比べてICD−10の方がより重い症状を持つ子供が適合するため、総数的には少ないとされている。そしてより基準の緩やかで適合範囲が広いDSM−IVでは多くの子供が当てはまる。医師が治療を施すべきかどうか判断する際に、ICD−10の基準にこだわりすぎると、実際にDSM−IVの方に当てはまる子供に効果的な治療や対応することができなくなる可能性があるのである。
     それから、このように明確な診断基準があると一見、医師でなくても誰もが診断できるように思われる。しかし、DSM−IVにある「しばしば」という表現はとても曖昧である。「しばしば」見られるとは、一体一日に何回見られたら「しばしば」というのか。DSM−IVには「しばしば」の定義は書かれていない。判定する人によって「しばしば」と感じる閾値が違うはずである。安易に子供と身近に接している親や教師が「しばしば」認められるからADHDであると判断してはいけない。あくまでも診断するのは医師なのである。

    5 ADHDはさらに細分類できる

     ADHDの基本的な症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つである。しかしこの3つの症状がすべての子供に見られるとははっきり言い難い。この3つの症状がそろってよく見られる場合は「混合型」のADHDといわれ、いちばん多いタイプである。それから頻度が低いタイプとして、不注意が目立たず、多動・衝動性が主体の「多動優位型」のADHDと、逆に多動・衝動性が目立たない「注意欠陥優位型」のADHDがある。特にDSM−IVに慣れ親しんできた専門家は、「注意欠陥型」のADHDのことをADD(Attention Deficit Disorder)と好んで呼ぶことがある。
     それではなぜこのように細かく分類するのか。それはADHDの概念が現在でも変化あるいは進化しているからである。現在特に注目されているのが、注意欠陥優位型のADHD(ADD)であり、このタイプは混合型や多動・衝動性優位型のタイプとさまざまな面で異なった特性を持っている。
     まず発生頻度の男女差がある。多動や衝動といった症状は目立ちやすく、男対女で四対一という割合であり、圧倒的に男子に多いが、多動・衝動性が目立たないADDは女子の方が多いと言われている。
     それから、ADHDの子供には治療の際、中枢神経刺激剤のリタリン(メチルフェニデートのこと。リタリンは商品名)を使用するが、より奏功するのは多動・衝動性であり、注意欠陥症状への効果はそれほど劇的には見られないことがよくある。つまり、ADDの子供にはリタリンの効果が少ないということである。
     他には、ADHDの症状は無治療でも思春期を越えると軽快することがよく知られているが、よく調べてみると軽快するのは主に多動・衝動性であり、注意欠陥症状は成人するまであるいは成人後も継続する傾向がある。最近日本でも認知され始めた大人のADHD(ADD)は、このような持ち越された注意欠陥症状が前面に出ているものと考えることができる。
     そして新たに注目を集めているものがある。ADHDの基準を満たし、注意欠陥優位型のADHDとよく似た症状の「原発性覚醒障害」(primary disorder of vigilance)が1990年アメリカの小児精神科医のワインバーグによって報告された。また2002年にADHD研究の第一人者であるラッセル・A・バークレー博士が来日講演した際、「ADHDの注意欠陥優位型は、別の新疾患の一部ではないか」との報告があった。
     このように、ADHDを細かく分類して研究を重ねることは非常に有意義であり、ADHDの子供により適切な処置が施せるようになるのではないかと思われる。


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    第2章 ADHDと近接の障害

    1 ADHDに似ている病態

     多動や衝動性があったり、注意力や集中力に問題があっても一概にADHDということはできない。ADHDと間違えやすい病態があるからである。医師は診断するのに細心の注意を払って障害を見極めなければならないのである。

    視覚、聴覚障害

     目や耳の障害があると、言われたことを理解したり、周囲の様子を把握するのが困難になり、交友や学習に障害を来たすことがある。このような子供は、混乱や落ち込みによって、行動や情緒の不安定に陥る場合がある。はた目には注意散漫で学習能力に欠けるという印象を与えることにもなり得る。聴覚障害の子供には落ち着きのなさ、依存性、攻撃性のような症状、聾の子供にはこのほかに脳性麻痺、視覚障害、認知発達の遅れなどが見られたりする。そして、視覚障害の子供には発育の遅れが見られ、さらに学習障害や脳性麻痺などの障害を併せ持っている場合が多く見られる。特に小さな子供は視覚がないことからくる不安や退屈のため、人との関わりを拒んだり、自分自身に刺激を与える行為(手をたたいたり、体をゆすったりというような動き)がよく見られる。ADHDの症状と似ているところがあるが、ADHDかどうかは医師の診断してもらわなければならない。また実際このような子供の中にはADHDのような障害を合併していることもある。

    てんかん発作

     一般にADHDとてんかんの症状は似ていることはないが、ある種のてんかんの治療のために用いられる抗けいれん薬、特にフェノバルビタールなどの古い薬の中には大きな副作用があり、過活動、苛立ち、抑うつなどの症状が表れたりする。また、カルバマゼピンやバルプロ酸ナトリウムなどは、覚醒状態、集中力、注意力などに影響を及ぼす場合がある。 小発作は瞬間的に意識を失い、ぼーっと宙を見つめた状態になるため、注意が散漫な印象を与える。小発作は子供によっては一日80〜100回起こりその間の記憶は欠落する。そして体が硬直するといった大発作の場合は、はっきりした意識の欠落が起こり、発作後には眠くなったり気分がすぐれないといった状態が続く。時には数日にわたって発作の影響が残り、この期間は注意力を持続するのが大変難しい。
     もちろん、てんかんの場合にもADHDを合併していることがある。しかしこの場合リタリンなどの中枢刺激剤で治療を行うと、脳のけいれん閾値を下げるため、てんかん発作が起こりやすくなるといったことがある。しかし最近は必ずしも中枢刺激剤が不適当ではなく、薬で発作をうまく抑えている場合には中枢刺激剤の使用が可能になっている。

    栄養不良

     脳の成長が最も著しいのは、胎児初期から生後12ヶ月までの間であり、栄養不良が脳に与える影響が最も心配されるのは、1歳までの時期である。普通考えられるのは食べ物の不足のためではなく、栄養のバランスが悪い場合や、口腔運動機能障害(物を食べる筋肉をうまく協調させることができない障害)である。生後1年の間に成長が遅れた子供は、その後の発達や学習障害を抱える場合が多く、情緒障害や行動障害が起こる率も高くなる。

     睡眠障害

     毎日きちんと睡眠がとれないと、子供は集中力を失い、学習や物事に意欲を持ったりするのが困難になる。また、いらいらしたり、怒りっぽくなったり、元気がなくなる場合もある。子供の異常な行動が睡眠不足であるのか、または隠れている障害があるのかきちんと見極めることが大切である。

     処方薬の副作用

     処方薬や違法に使用される薬物の中には、ADHD様の副作用が表れるものが多い。先述したてんかん発作の治療に使用する抗けいれん薬は、注意力や集中力の低下、苛立ち、思考障害などであり、アミトリプチリンなどの抗うつ薬は、鎮静作用のため眠気を催し、長く集中できず、気が散りやすくなったように見える場合がある。また、喘息の治療に使用されるサルブタモールは、服用の量が多すぎると神経が高ぶって不安症状を示すことがある。
     このような副作用があるからといって、子供の服用を親が急に止めてしまうことは危険であり、当然、医師と相談することが肝要である。

    2 ADHDと間違えやすい、または合併が見られる精神障害

     ADHD、LD(学習障害)、自閉症などは脳に何らかの原因がある障害という点で共通しているが、脳波やCTスキャンでは特に異常が見られるわけではない。それぞれが違う診断基準に当てはまるかどうかで診断されるのである。また、ADHDの子供の中には成長にしたがって診断名が「自閉的傾向のADHD」や「アスペルガー症候群」などと変更されることもある。

     自閉症スペクトラム(自閉症・アスペルガー症候群ほか)

     自閉症の概念はアメリカの児童精神科医のレオ・カナーが1943年に「情緒的接触の自閉的障害」を英語で発表し、翌年「早期幼児自閉症」と命名したのが最初である。その一方オーストリアの小児科医のハンス・アスペルガーが1944年に「子どもの自閉症精神病質」をドイツ語で発表した。しかし、カナーの報告のほうが一般的に広まり、アスペルガーの報告が注目されるようになったのは、彼が亡くなった翌年1981年にイギリスの自閉症研究者のローナ・ウイングという女性が「アスペルガー症候群」という論文を英文誌で紹介されてからである。以降、アスペルガー症候群と区別する目的でカナーの自閉症のことを古典的自閉症、あるいはカナー症候群と呼ばれるようになった。
     自閉症には三つの基本症状があり、「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害(こだわり)」が見られる。これらの三領域の障害が同時に認められる状態を「三つ組」の障害と呼ぶ。この「三つ組」の障害は3歳を過ぎてから出ることが多い。
     アスペルガー症候群の特徴は知的な遅れはなく、言葉の発達は普通の子供たちと同じか、むしろ優秀である。コミュニケーションに関しては、一見普通に見られるが、相手の気持ちを察するというような共感性が乏しいことがある。
     他に新しい概念として高機能自閉症があるが、これはとても曖昧なものであり、学会で承認されたような定義は特にない。よく用いられるのがIQ70〜140台までを一括して高機能と呼び、明らかな知的な遅れがないという意味で使われる。しかし行動に関しては自閉症そのものであり、「三つ組」の障害を持っている。臨床的には高機能自閉症とアスペルガー症候群を厳密に区別する必要は無いと言われている。
     自閉症スペクトラムとは、カナーの自閉症にアスペルガー症候群、さらにその周辺であるが、厳密に言えばどちらの定義にも当てはまらない一群を加えた広い概念であり、「スペクトラム」は「連続体」という意味である。
     では自閉症スペクトラムとADHDとは関連があるのか。実は自閉症やアスペルガー症候群の子供にも多動や衝動性が見られ、また自分の興味や関心で頭がいっぱいになると、ほかのことにまったく注意が払えないという不注意も多く見られるのである。このような面ではとてもADHDと似ている。異なる点としては自閉症のコミュニケーションは絶えず一方的であり、相互的になるのはまれであるということや、物への対応の不自然さなどがある。
     しかし、ADHDと自閉症の両方の症状が見られる場合には、DSM−IVやICD−10の決まりでより深刻な症状を優先し、診断名は「自閉症」とされる。ということは、ADHDは自閉症ではないことが確認されてはじめて診断されるのであり、診断する医師は自閉症の診断技術がなければならないのである。

    LD(学習障害)

     LD(Learning Disabilities)は教育用語である。基本的には知的な遅れはなく、中枢神経系に何らかの障害があると推定される。特徴として、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの修得と使用に著しい困難がある状態である。
     LDの子供の多くは通常の学級に在籍している。それはLDが非常に見えにくい障害のためである。実際、中枢神経系に障害がありLDであっても、気づかずに成人していく場合もよくあるのである。
     そしてLDはADHDと合併している場合も多く見られるが、その因果関係は未だ謎が多い。

    トゥーレット症候群

     DSMによるとトゥーレット症候群とは、ほぼ全身に出現する多彩な運動性チックと音声チックが頻発する状態である。チックとは突発的で早い動きまたは短い発声で、繰り返し認められ、チック症の重症型をトゥーレット症候群と呼んでいる。
     こうしたチック症状は注意力の持続を困難にさせるだけでなく、多動と誤解されることもある。そしてチックのある子供は、その症状を隠すために落ち着きなく体を動かしたりすることもよく見られる。
     トゥーレット症候群は珍しい障害であるが、その中の約半数がADHDを合併しているとした報告もある。

    反抗挑戦性障害

     反抗挑戦性障害はDSM−IVによって医師が診断する。ADHDの子供のごく一部に小学校高学年になってむしろ問題行動が多くなってしまうことがある。親や教師といった大人に反抗して言い争ったり、故意に他人をいらだたせたり、自分の過ちを人のせいにしたり、いつまでも恨みを抱いたりするなどである。これはただ単にADHDそのものから生じているのではなく、周囲の不適切な対応とADHDの衝動性が関係し合って二次的に生じていると考えられ、早急に専門機関への相談や医療機関の診断を受けさせるべきである。この段階で症状を止めておかないと、子供の将来が大きく左右されることになり得る。

    行為障害

     行為障害についてもDSM−IVによって医師が診断する。反社会的、攻撃的、反抗的な行為が反復的、持続的に見られる障害で、行為障害が見られる子供や青年は特に読み書きの障害があるケースが多く、ADHDの症状によく似ている。
     またADHDの子供の一部が反抗挑戦性障害になった後に、なお症状が止まらず、恐喝やけんかを繰り返すなど、他人の基本的人権を侵害する明確な違法行為をする場合がある。ここまで進むと、その後の経過は良くないことが多いため、行為障害を合併しないように、それ以前の対応をきちんと行うべきである。

    3 ADHDの二次障害を防ぐ

     ADHDの子供はADHDでない子供と比べて、思春期になると特に非行や不登校、いじめ、家庭内暴力、ひきこもりなどの二次障害の発生率が高いと言われている。これは周りの人間の対応や環境が適切でなかったためと考えられている。

    ADHDの子供は幼児の頃から周りの人間が困るようなことをたくさん起こすので、注意や叱責を受け続けている。しかし本人にはその自覚がないため、叱責されることが理解できず、反省どころか反抗するようになってしまうことになる。また、親や教師、あるいは友達に認められず、自信を失い、自己評価がとても低くなるという場合が多く見られる。そのような積み重ねが、思春期になると一気に吹き出すようになると考えられる。

    ADHDで最終的に問題となってくるのは、落ち着きがないことよりも、情緒の面である。ADHDの子供に関わっている人間は、その子供の自尊感情や自己評価を下げないよう配慮すべきである。


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    第3章 医学的治療

    1 薬は飲むべきなのか

     私はもともと薬というものはあまり好きではない。頭痛や腹痛や風邪は寝れば治ると思っている。仕事に支障がある場合に仕方なく服用するといった具合いである。うちの家族でも薬を服用するといったことはあまりなく、家庭の置き薬は一向に減らない。病院にもあまり行くことはない。以前、私が明朗塾に勤めはじめて間もない頃、お客様の質問で、「八重樫先生は、どこの病院行ってるの?」と言われたことがあった。私が「どこにも行っていません。」と返答したところ、そのお客様は目をまん丸くさせ、「え?」と、とても驚いていた。まるで、病院に行っていない人間のほうがおかしい、あるいは病院に行っていない人間に初めて会った、というような反応であった。私も同時にとてもショックを受けた。お客様の話では、みんなかかりつけの病院を持ち、そして薬を服用することが当たり前になっているということであった。
     ADHDの子供の場合も、薬を服用することに親や本人が反対するということがある。特に本人は自分の問題であるため、薬を服用することにとても不安を持ったり、あるいは悪いことをしたおしおきで飲まされると思い込む子供もいる。ADHDの子供によく処方される「リタリン」は、覚醒剤類似の薬物であり、アメリカではクリントン前大統領のヒラリー夫人らが中心となって、子供たちへの乱用に反対するキャンペーンが行われたこともある。アメリカではADHDの子供にリタリンを処方することが当たり前のようになっており、疑問視する医師はあまりいないのである。しかし、日本や多くのヨーロッパの国々ではリタリンの処方は主流になっておらず、とても慎重な態勢をとっている。実際リタリンはまだ実験段階であり、短期的、または中期的には効果が見られているが、長期的な効果があるかについて結論は出ていない。

    2 リタリンとは何か

     普通、ADHDの特徴の多動や落ち着きのなさを考えると、効果がある薬としては興奮を抑える鎮静剤や睡眠効果のある薬と思うのではないだろうか。ところがADHDの子供にそれらを投与しても、多動や注意欠陥症状は改善されない。ではどうするか。とても不思議なことに、一般的には神経を興奮させる働きのある中枢神経刺激剤がADHDの子供に効くのである。
     では中枢神経刺激剤とはどのようなものなのか。ADHDの子供に処方されているものは、中枢神経刺激剤の中のメチルフェニデートであり、リタリンはその商品名である。今のところ、メチルフェニデートを世界中に供給している会社は一つであるため、リタリンという商品名が一般的に使われているのである。リタリンは正しく処方されれば、極めて安全であり、かつ有効的な薬である。日本でリタリンは、うつ病や居眠り病といわれるナルコレプシーの治療薬として使われるのが普通である。
     リタリンが効果があることはどうしてか、詳しくはまだはっきりと分かっていない。大抵、リタリンが興奮を抑制するところの神経を刺激することで、効果が現れているのではないかと言われている。それからまた新たに、ひとつ明らかになってきたものがある。
     人間の脳は、何百億もの神経細胞(ニューロン)から成り立っており、そのひとつひとつの神経細胞は突起を伸ばして他の神経細胞と接している。接していると言っても実は極めて狭い隙間(シナプス間隙)があり、片方の神経細胞から分泌される神経伝達物質が隙間の向こうの神経細胞に刺激を伝えている。この神経伝達物質として、アセチルコリン、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどがあり、多動性障害の子供はこのドーパミンの代謝産物が減少していることが知られていた。そして研究を重ねた結果、シナプス間隙にいったん分泌されたドーパミンを再利用するためのドーパミントランスポーターと呼ばれるタンパク質の機能が亢進していることが判明した。そして、最近ではリタリンがこのドーパミントランスポーターに結合して、その働きを抑える作用があることが分かってきたのである。

    3 リタリンを飲むとどうなるか

     リタリンは錠剤(10mg)か粉末で調剤され、通常錠剤を切って半分の量から始め、徐々に増やしてその子供に最も効果がある量を見つける。リタリンは、服用するとすぐに吸収され、血液中に移行し脳に運ばれる。そしてリタリンは体の外に排泄されるのも早く、通常血液の中で有効な濃度が持続するのは、3〜4時間くらいである。
     たいていは朝に1回服用し、2回目はお昼頃になるが、その状況を教師によく観察してもらうことが大事である。そして2、3ヶ月毎には医師に薬の効果を報告することも大切である。すなわち、親、教師、そして医師との連携プレーがADHDの子供に対してとても重要なことなのである。

    4 リタリンに副作用はあるのか

     アメリカでは、全世界のリタリン生産量の90%を消費していると言われている。すでに20年以上にわたって、多くのADHDの子供たちがリタリンを飲み続けているが、大きな副作用は報告されていない。リタリンはとても安全で有効な薬であるという考えが定着している。
     しかし、リタリンはその服用を止めるまでには至らない小さな副作用は多くある。不眠や頭痛、食欲不振、子供によっては吐き気、めまい、うつ状態、それから興奮や攻撃性の増加が見られたり、もともとチックがある子供はその症状の悪化も見られることがある。
     しかし、リタリンを服用することによって、その子供の人生が大きく変わるのは間違いない。多動や衝動性が治まってくれば、人に迷惑をかけることも減り、今までいじめられていた友達とも和解することになるであろう。また注意力が持続することによって、授業に耳を傾けられるようになったり、忘れることも少なくなり、学習への意欲が湧くことにもなるであろう。実際アメリカや日本でもADHDでありながら、医師になった人がいるのである。


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    第4章 非薬物療法

    1 子供も親も悩んでいる

     ADHDの子供は、人に迷惑をかけるといった特別な問題行動以外には、普通の人となんら変わりはない。普通の人と同じように考えたり、夢や希望を持っている。しかし、普通の人と違うと言われたり、悪口を言われたり、あるいは教師に面と向かって怒鳴られたりして、心に傷を持って生きている場合が多くあると思われる。なぜ周りの人たちが自分に対してそうなのかが理解できなくても、人に嫌がられているということは感じているはずである。また、ADHDの子供と何年も暮らしていると、親にも影響が出てくると思われる。子供と一緒にいるといらいらさせられたり、反抗されたりして毎日とても神経を使っているであろう。
     こういった場合には、心理療法士に相談するという方法もある。さまざまな問題やこれまでにどのような対処をしてきたか、家庭の環境はどうかなどを心理療法士に伝え、その家族にふさわしい方策をアドバイスしてもらうことによって、ADHDの症状の改善につながると思われる。

    2 世界各国で実施されている行動療法

     以下に有名な3つの行動療法を挙げる。行動療法は薬物療法と組み合わせると、とても効果が上がることが今までの研究で明らかになっている。

    ABC分析と正の強化

     行動療法では、思考、感情、行動、そして周囲で起こる出来事がどのように結びついているかを理解させるのがポイントであり、子供の実際の生活の中で学んでもらう。自分のした行動が、そのあとに起こることに影響しているということが解るようにさせるのである。

    【ABC分析】

     親は子供の良くない行動について記録する。まず、良くない行動の前に何があったか。そして子供が何をして、何を言ったか。それから誰がそこにいて、一日のうちいつ、どこで起こったのか。またそのような行動は頻繁に起こるのか、どの程度深刻か、そしてどのような対処をしたのかなど、その状況を詳しく心理療法士に伝える。ときには親の対応の仕方が間違っている場合もある。例えば、良くない行動から意識をそらすために、親が良かれと思って子供の興味があるものを与えてしまうことは、間違いである。子供にとっては、良くない行動をしたらいいものがもらえると勘違いしやすいからである。または来客があった時に、子供がおかしなことをお客様に言ったり、うるさくした場合に、部屋でゲームをすることが好きな子供に対して、部屋でゲームでもしていなさいと言うのも間違いである。

    【正の強化】

     子供のあらゆる行動は、結果が自分の利益になる場合に頻度が高まったり、程度が強まったりする。この心理を利用して、より良い行動をするよう教え込むことが必要である。
     ※この手法では、親は次のようなことを行なわなければならない。

    1. 親が子供に求めている振る舞い、許されぬ振る舞いをできるだけ分かりやすく伝える。この時、言葉の意味が曖昧になってはいけない。「あんまり良くないわね。」「・・・したらえらいね。」「・・・したらいい子なんだけど。」と、このような言い方ではなく、はっきりこれは良い、あれは悪いと言うべきである。
    2. 次に、良い振る舞いをした場合にどんな結果になるのかを教える。結果が分かれば子供はその行動を意識するようになる。
    3. 良い振る舞いをした時にはご褒美を与える。これは子供が自身をつけることにつながる。そしてご褒美とは必ずしも物を与えることではない。まず、褒めること。それから一緒に遊ぶとか、子供の好きな本を読んであげるなど、それだけでも子供は喜ぶはずである。ただし、親がただ一方的にチョコレートやアイスクリームを与えれば良いと決めつけてはいけない。あくまでもその子供が喜ぶことをしなければ効果がない。そして、ご褒美はできるだけ早く与えることが大事である。今度買ってあげるなどは、忍耐力に欠けているADHDの子供には効果がないのである。
    4. 危険な場合や限度を超えていると思われる場合を除き、良くない振る舞いをした時には無視するようにする。怒鳴ったり、「悪い子」という言葉を使うと、子供はやる気を失くしてしまうことになりがちである。
    5. 子供が良い振る舞いができるよう、前もって計画する。親は、子供が失敗するような状況になることを避けなければならない。例えば、混んでいるスーパーのレジに子供も一緒に並ばせ、じっと我慢させるというようなことはしない方が良い。

    この方法を成功させるには、心理療法士との連携が必要である。親は何度でも心理療法士に報告しなければならない。また、効果があまり見られない、もしくはこの方法を実行してみたら良くない行動の回数が増えたと言って、途中で諦めないこと。ひと段落するまで根気よく続けることが肝要である。

    トークンエコノミー

     トークンとはおもちゃのコインのようなもののことで、トークンエコノミーという方法は、家庭でも学校の教室でも行うことができる。この方法は、まず前もって良い行動と良くない行動を指定し、それぞれの行動に点数を付けておく。例えば、宿題を提出できた→100点、課題を完成できた→100点、花に水をやった→20点、または他人にちょっかいを出した→−10点、けんかを始めた→−50点といったように決めておく。そして、各行動が見られたらトークンを渡したり、または返却したりする。トークンはコインではなく紙のカードでもよい。この方法は、ADHDの子供に対してだけではなく、クラスの生徒全員で行った方が良い。たまったトークンの総数はクラスのみんなが分かるように教室に掲示し、一定のトークンがたまったら、ちょっとしたプレゼントや、好きな係りを一日やってもよい権利、動物にえさを与える権利のような特典と交換することができるようにする。
     ただし、この方法を実施する際には注意すべきことがある。ADHDの子供だけがまったくトークンを獲得することができず、マイナス点ばかりが増加するといった状況になってしまってはいけないのである。ADHDの子供にあわせたレベルで行うことが必要となる。親や教師はその辺りを考慮して実施すべきである。

    タイムアウト法

    タイムアウト法は、良くない行動をした場合の対処法である。不注意で失敗した場合には使わず、例えば人をたたく、悪口を言う、物を壊す、大声で泣きわめく、動物をいじめるなどである。親、または教師が何度か注意しても止めなかった場合に、「タイムアウト!」と宣告し、決められた一定時間、決められた安全でかつ退屈な場所に子供を隔離する。タイムアウトの宣告と同時に時間を測定し始め、直ちに隔離し、だいたい5分程度じっとしていなければならない状況にする。その間誰もその子供と口をきいたりしてはいけない。とにかく、その子供にとって「退屈で早く抜け出したい」と思わせる状況でないと効果が現れないのである。しかし、あまり頻繁にこの方法をとると、次第に効果が薄れてしまう場合もある。

    3 ADHDの子供に対して最も大切なこととは

     治療の形態にかかわらず、ADHDの子供に対して最も大切なことは、常に希望を持ち続けて諦めないことである。ADHDの子供を持つ家族はたいてい、思い出したくもないような失敗や、周りの人間からの拒絶、そして自分の無力感を嫌というほど味わっていると思われる。諦めたいと思っている親もいるであろう。しかし、診断が始まった瞬間から「今から子供を助けるのだ!」という強い信念を持って、子供の支援をしていかなければならないのである。
     そのためには教師も積極的に勉強し、ADHDの子供を良い方向に導いていかなければならない。親と医師、そして毎日身近に関わっている教師の連携があってこそ、ADHDの子供が救われるのである。


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    あとがき

     私が通っていた小学校には特別学級があり、普通学級とは違ったカリキュラムで過ごしていたため、実際に障害がある子供と関わる機会はなかった。今回のレポートでひとつ残念なことは、私が障害者と関わった体験談を書くことができなかったことである。しかし、書物を通じてADHDやそれに関連する障害について少しは知識が身に付き、他の障害も勉強してみようという意欲が湧いた。
     私がいちばん重要に思ったことは、ADHD(またはその他の障害)ではないかと思われたら迅速、そして適切に対応すべきであり、そのためには周りの人間が協力し合うということである。アメリカではADHDを疑わせる行動のリストが数多く考案・販売されており、親や教師一般にADHDについての基本的な知識があるそうである。そのため、教師と親がスムーズに協力し合えるというが、日本で教師が不用意に「おたくのお子さんはADHDの可能性があるので、医者に診てもらった方が良い。」と言ったとしたら、親はとても憤慨し、そんな教師とは関わりたくないと思うであろう。そうなると協力し合うどころではなくなってしまう。また教師が親に言いづらいため、子供に医療機関に関わる機会を失わせているということもあり得る。そういったことを少しでも解決するために、日本でも例えばテレビのようなメディアを通じたりして、一般的に障害の知識を広めても良いのではないだろうか。
     最後に、明朗塾のお客様は70人以上いるが、よく見かける保護者はだいたい決まっている。明朗塾にわざわざ来てくださいとは言わないが、何かしらの方法で(例えば広報紙の保護者のページなどで)もっと保護者と指導員が関わりを持つことで、お客様の支援のために役立てられれば良いと思う。


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    参考文献

    『ADHD注意欠陥・多動障害 親と専門家のためのガイドブック』
      アリソン・マンデン&ジョン・アーセラス著 市川宏伸・佐藤泰三監訳 紅葉誠一訳(2000年)東京書籍

    Dr.サカキハラのADHDの医学
      榊原洋一著(2003年)学研のヒューマンケアブックス

    高機能自閉症・アスペルガー症候群入門
      内山登紀夫・水野薫・吉田友子編(2002年)中央法規出版

    教育現場における障害理解マニュアル
      小野次朗・榊原洋一共編(2002年)朱鷺書房

    ADHD及びその周辺の子どもたち
      尾崎洋一郎・池田英俊・錦戸惠子編(2001年)同成社


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