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聞く技術を身につける
〜カウンセリングの技法を相談業務に活かすために〜

地域生活支援室MEI室長 コーディネーター 樋口淳子

1  はじめに

2  カウンセリングとは

3  聞くということ

4  「いま・ここ」の大切さ
5  聞くことを相談業務に活かすために
引用文献

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1 はじめに

 地域生活支援室MEIでの業務のうちもっとも重要といえるのが相談業務である。私はこれまで面談をさせていただく際、相手が不愉快な気持ちにならないようにということには気をつけてきたつもりであるが、その他の専門的な知識はないまま相手の方と時間を過ごしてきたように思う。ご本人、ご家族の相談に応じる際、どのような点に心がければよいのかについて、カウンセリングの技術より応用できることを知りたいと思い、このテーマを選んだ。臨床心理士東山紘久氏著の「プロカウンセラーの聞く技術」をもとに述べていきたい。


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2 カウンセリングとは

 私はカウンセリングという言葉の正しい意味を知るまでは、クライエントがカウンセラーに悩みを打ち明け、何らかの助言をしてもらい正しい方向に導いてもらうこと、というようなイメージを抱いていた。決してそうではないことを知ったのは、明朗塾職員研修のなかでカウンセリングについて学んでからである。カウンセリングとは何はさておきカウンセラーがクライエントの話を「聞くこと」であり、自分の判断から助言をするということはないのである。では単に話を聞いて相手の気持ちを吐き出させてあげればよいのかと思いがちであるが、この「聞くこと」をマスターすることは何よりも難しいのである。これについては次の項目で述べる。

カウンセリングとは・・・

 カウンセリングの語源は、「待つ」「共に考慮する」という言葉にあります。カウンセリング=相談と思っておれらる方が多いようです。「相談」という言葉のもつイメージは、「診断」「助言」「指導」といったことばであり、コンサルタントや身の上相談業務をされている方は、まさにこの相談業務を行っておられると思います。カウンセリングにも、この3つの役割は内包していますが、カウンセリング本来の役割は、助言、指導などは一切行わないのです。カウンセラーの役割は、クライエントとの人間的コミュニケーションを通して、クライエントの人間的成長を援助することにあります。
 カウンセラーは、クライエントとの人間的なコミュニケーションをとるために「傾聴」を行います。実際、最初の数回のカウンセリングでは、ひたすらクライエントの言葉を「聴く」ことになります。
 「聴く」ということは、「訊く」「聞く」とは違います。「訊く」とは言葉でいろいろとたずねるとか、質問するという意味になります。「聞く」とは、耳で聞くという物理的な反応です。
 「聴く」とは、心の文字がはいっているように、相手のいわんとするところを心で受け止め、心で返すという意味が含まれています。話の知的な理解だけでなく、その背後にある感情を受け止めて理解することです。
 優秀なカウンセラーである、カール・ロジャース(来談者中心療法を参照)は、カウンセリングによってクライエントのパーソナリティの変容が起こるには、カウンセラーの態度として次の3つの条件が必要といわれました。

(1)自己一致
(2)無条件の肯定的関心
(3)共感的理解

 この3条件は、ロジャース派のカウンセリングだけでなく、ほぼ全てのカウンセリング技法の基本的態度として考えられています。

ホームページ「Mental laboratory〜心理カウンセラー儀助の心の相談室〜」より

 このようにカウンセリングとはまずクライエントの話を聞くことが重要なのである(なお、上記引用文中に『「聴く」ということは、「訊く」「聞く」とは違います』とあるが、この研究レポートのなかでは「聞く」という漢字に表現を統一したい)。
 『日本にカウンセリングが導入され、爆発的に広がったのは、ロジャースの「来談者中心療法」という理論』と東山前掲書のp135にあるとおり、上記引用文中にある来談者中心療法は日本のカウンセリングに大きな影響を及ぼした。

来談者中心療法とは・・・

C.R.ロジャースが提唱。
 ロジャースの人間観は「人間は、成長、健康、適応に向かう衝動をもち自己実現に向かう有機体である」。
 ある特定の問題を解決するのではなくて、個人が全体として成長するのを援助すること、それによって、その個人がいまおよび将来の問題に対して、より統合的なやり方で対処できるようにすること。そのためには、個人の感情、情緒を重視する。過去をとりあげるのではなくて、「いま、ここ」でのその人のあり方に焦点をあわせる。クライエントは治療関係の中で成長体験が得られる。傾聴の基本的態度としてあげた3つの条件は「純粋さ」「無条件の肯定的関心」「共感的理解」。まずは、カウンセラーはクライエントに脅威を与えないで温かく接することである。そしてクライエントに受容的で許容的に接して、信頼関係を築くようにする。信頼関係ができクライエントが自己防衛する必要がなくなると、自己概念をかたくなに信じる必要がなくなってくる。さらに、信頼関係が確立されたら、カウンセラーはクライエント発言の感情表現を中心に鏡の様に反映し、クライエントの用いた感情表現をそのまま返す。クライエントは日常的に感じている気持ちをカウンセラーの繰り返しの言葉の中に聴くと、体験と自己概念に合わない部分が明確になり、クライエントがありのままの自分の姿を見ることができるようになる。つまり、自己知覚の見直しが始まる。体験と自己概念の比較が始まると、今まで気づかなかった不一致のいくつかの経験に気がつきはじめ、矛盾や葛藤をそのまま表現するようになる。クライエントの気持ちの一部に始まった混乱を言語化して話してみると、矛盾点がなおいっそう明確になり、再統合が必要になる。つまりここではいままで不一致であった気持ちはこのように統合され、新たな段階に到達するのである。カウンセリング面接の中で、このような結果は、不安や脅威から解き放たれ、最終的にはあらゆる体験過程に開かれ、機能する人間に向かって変化することが期待できる。

前掲ホームページより

 しかしこの来談者中心療法を日本人が導入した当初は、単にこれを鵜呑みにしてしまい「相談者からカウンセラーは何もしないし壁に話しているようだと非難を受けるはめになったりし」たのである。聞くことは理解することであるが、当時はただ聞いていて相手の心を理解しないという状態に陥ってしまっていたのである。受け身で聞くだけでは相手の立場に立って聞いていることにはならないのである。

ちなみに補足であるが、カウンセラー(=臨床心理士)の資格を取得するには指定大学院の修了が必要である。
 カウンセラーと精神科医の違いは次のとおりである。臨床心理士とはカウンセリングや集団精神療法を行うための専門的な訓練を受けたうえで心理的社会的サポートを行っている人々を指し、精神科医とは、厚生労働省が認定する医師の国家資格を持ち、医学の専門家として診断と投薬、及び治療を行う人々を指す。クライエントによっては精神科医よりも臨床心理士の方が相談しやすいと感じる人もいるが、クライエントの社会的心理的問題の解決を援助する目的を持っているという点においては両者とも同じである。
日本の現状では、厚生労働省が認定する国家資格を持つ医師のみが、診断、投薬、治療をすることを認められている。臨床心理士は日本臨床心理士認定協会が認定しており、クライアントのニーズにあわせてカウンセリングや心理的サポートを行っている。また、たとえ他の国々で認定された医師の資格を持っているとしても、日本の国家資格を持った医師でない限りは日本で医療行為を行うことは法的にも倫理的にも認められていない。


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3 聞くということ

 では、専門的に「聞く」ということは実際にどのようなことなのかを、東山前掲書にもとづき、いくつかの点から述べる。

  1. 聞き上手は話さない
     たいていの人は聞くことより話すことが好きである。話下手だと思っている人でもリラックスして話せる相手にめぐり合えたときとどまることを知らないほど話をするものである。相手の話を聞いていると聞き手はつい自分もそれに関連したことを話したくなってしまうが、相手にとってこちらの話はまったく参考にならないことが多い。むしろその間は相手の時間を奪ってしまうことになるのである。聞き上手は相づち以外はしゃべらない。
  2. 相づちは豊かに
     聞き手が相づち以外はしゃべらないということは、つまり種類豊かな相づちをもっている必要があるということである。「はい」「ええ」「そう」などの肯定的な相づちに始まり、「ふん」などの否定的なニュアンスを加味した相づちなど、プロのカウンセラーは様々な相づちを使い分けている。また、相手の話したことを繰り返すことも相づちのひとつである。ただし単なるおうむ返しでは相手をばかにしているように思わせてしまうので配慮が必要である。「明快に」「短く」「要点をつかんで」「相手の使った言葉で」というのが大切なポイントである。
  3. 避雷針になる
     他人の秘密ばかりを聞きそれが頭の中にたまってしまうと誰でもそれを抱えきれない状態になる。プロのカウンセラーは聞いた話を忘れるように訓練している。それは雷のときの避雷針の役割と同様である。雷を避けるのではなく落ちるための設備なのである。来談者のたまった感情を吐き出してもらい、自分にはためこまずに地中へと吸収させるのである。
  4. 相手の話に興味を持つ
     カウンセラーは相談者の話につきない興味をもっている。これは話の具体的内容ではない。相談者がどうしてそのような思いをするのか、どうしてそのような受け取り方、感じ方をするのかに興味があるのである。ときには相談者の話自体に心が引きつけられることがある。そのときは話を興味深く聞いているが、カウンセラーとしてはこのようなときのほうがむしろ聞くのが難しいのである。それは自分の気持ちや感情によって話を聞いてしまうからである。これは共感しているようで共感ではない。なぜなら共感とは相手の気持ちで話を聞くことだからである。自分の気持ちで聞いてしまうとどこかで相談者の気持ちとズレが生じるのである。相手の話に興味がもてないときこそ相手の気持ちに立ち相手を理解するチャンスなのである。
  5. 素直に聞く
     素直に聞くということはとても難しい。ただし相手に素直であるのと自分に素直であるのとを区別する訓練さえすればそれほど難しいことではない。相手の言うことは相手の思いのままに聞き、自分の思いは相手が聞くまで胸にしまっておくのである。素直に聞くことは素直に話すこととは違うのである。「自分を守る立場」「説教する立場」「言う立場」に自分を置かない訓練が必要である。ListenするだけでAskしないのである。

 いくつもあるポイントの中から、まず実践してみたいと思う5点のみをあげたが、この5点だけでさえも同時に実行することは困難であることがわかる。
 まず大原則である「聞き上手は話さない」についてであるが、ご家族と話をしているとつい自分のことに関連付け「私もそうです」などと話し始めていることがある。
 また、「避雷針になる」ことは私が現在もっとも大きな課題としていることである。人からの悩みを聞いているとそのことで頭がいっぱいになり他の時間も憂鬱な気分になってしまうのである。
 心にゆとりがもてず相手の話を「素直に聞く」こともできないことが多い。「この人は自分のことは棚にあげている」など自分が優位に立った見方をしてしまい、相手の意見を相手の思いで聞くということができないのである。聞く技術を身につけるには相当の訓練が必要であることがわかる。頭ではわかっていても心が邪魔して実行することが難しいからである。


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4 「いま・ここ」の大切さ

 2の来談者中心療法のなかで述べた「いま・ここ」についてここで詳しく説明したい。聞き上手になるためには「いま・ここ」の感覚が大切である。悩みを抱えている人、または幻聴のある人にいくら過去や将来のことを話しても意味がない。それは不確かであり、特に将来については誰にもわからないからである。「いま・ここ」の確かな話のみをすることで来談者は次第に落ち着きを取り戻すことができるのである。以下はその会話の例である。

 あるとき一人の相談者が憔悴して私のところへやってきました。−中略−「自分のまわりの人が、みんな自分の考えていることをわかってしまう」恐怖から逃げ回っていたのです。−中略−
 彼はそうとう興奮していましたので、まず落ち着いてもらう必要がありました。私はゆっくりと彼の話を聞きました。−中略−ときどき窓から外を見て、いましゃべっていることも窓の下の通行人に伝わっているのかどうか疑っていました。−中略−
 彼がこの二、三日食事をしていないと話したときに、私はきょうのお昼ご飯に私が何を食べたか聞きました。彼は当然わからないと答えました。
 「あなたがお昼に何も食べていないことは、先ほど聞いたので私にはわかっています。でも、もしあなたが何か食べていたら、それが私にわかるかなあ」と言いますと、「それはわからないでしょう」と言うのです。
 「あなたと私は、いま下を通っている人よりかかわりが深いよね。それでも、お昼に何を食べたかといった簡単なことでもわからないんだよね」と言うと、長い沈黙のあと、彼は「僕の思いすごしでしょうか?それでも伝わっているような感じがするのですが」と、だいぶトーンダウンしてきました。−中略−
 「僕はとても疲れるのです。どうしたらいいのでしょう」と聞いてきましたので、「疲れをとるのは、まず眠る必要があるよね。そのためにはお薬を飲んで、ゆっくりできる所で休むのがいいと思うが」と答えると、「そうしたい」と言うので、入院できる病院を紹介しました。彼は納得して入院したので、その後の回復も早く、いまはふつうの生活を送っています。

東山前掲書p.114より

 このように「いま・ここ」レベルの会話ができると相手も落ち着いてこられるのである。ちなみにこの会話の例を見てもわかるとおり、終始カウンセラーは相づちのみを打っているとは限らない。幻聴など現実とかけ離れたことで悩んでいる場合には「いま・ここ」の確かな話をすることで来談者自らが答えを導き出す手助けをするのである。


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5 聞くことを相談業務に活かすために

 これまで述べてきた「聞くこと」の技術はMEIでの相談業務に役立てられることがほとんどである。ここで一度「カウンセリング」と「相談」の違いを確認しておきたい。相談が問題解決を目的としているのに対し、カウンセリングは相談者自身をターゲットにしている。人生相談はクライエントに「こうしなさい」「ああしなさい」と助言することである。しかし助言をする側の目線で語られる助言は必ずしも抱える問題に対して有効とはいえないため、的外れで一方的なものであったり意見の押し売りになったりすることがある。それに対し、カウンセリングは相談者自身をターゲットとするので、「受容」に比重をおき相談者がどんな感情や言葉を表しても受け入れるのである。
 MEIを利用される会員やご家族は何を求めていることが多いのであろうか。必ずしもアドバイスを求めての相談ではないことが多いのではないだろうか。もちろんどの方も「情報」を求めているであろうことは確かである。現在の確かな情報を相談機関から得られることは相談者にとって収穫であるはずである。しかし繰り返すがそれは「確かな」ものでなくては無意味である。そのためにもコーディネーターは情報網を張り巡らし常に地域の現状を把握している必要がある。
 クライエントが自身の思想を再構成し今後の方針を立てられること、これこそがカウンセリングの一番の目的である。ただし、人は他人からのアドバイスでは思考の再構成ができない。自分で話すことで再構成できるのである。そのためには自分の思いを話すことが重要であり、そのためにはカウンセラーがクライエントの話をとにかく聞くことに徹するのである。それによってクライエント自身にもわかっていなかったことがだんだんわかってきて、自身で今後の方針を立てられるようになるのである。河合隼雄著の「河合隼雄のカウンセリング入門」p.75に『聴いているとだんだん出てくる』とあるとおり、『聴いていると非常に大事なことが自然に出てくる』のである。クライエントは、自分でも本当に訴えたいことが何なのか分からず、初めは別の相談を持ちかけることも少なくない。そこでカウンセラーが、クライエントの言葉の復唱や相づちをうつ以外に、「他の人はどうなっていますか」などと尋ねたりすると初めの問題に関してのみの会話になってしまう。MEIでの相談業務の大きな参考になると思われる例を述べる。

 よくあることですが、自分の問題ではなくて子どもの問題で来られるお母さんがおられますね。つまり、「自分の子どもはおねしょをしますから」あるいは「自分の子どもはドモリですから」と言って子どもをつれて来られます。そして「きょうもおねしょをしました。この間もやりました」と、子どもの話ばかりをされます。われわれはそこで、「それだったら水を飲まさないようにしなさい」とか「薬を飲ましなさい」とかは言いません。ただ黙って聴いています。「困ります」と言われたら「困ります」と聴いているわけです。―中略―そうなってはじめて、「実は、私の姑が…」というような話が出てくるんです。―中略―聴いていて思いますのは、子どもがドモリということだけれども、考えてみたらお母さん自身もいろいろな悩みがある。―中略―このお母さんが子どもにきつく当たるのも無理ないではないか。では、だれが悪いのか。この辺は聴いているこちらにも、だれがどうなっているのか、気の毒なばっかりでわからない。そうなると、「あんた、こうしなさい」と言うこともできない。
 ―中略―「これだけしんどくなってきたら、あの人はもう来ないだろう。―中略―」と感じるわけです。ところが、来られるんですね。そうして、僕の考えとは全然違う解決方法を自分で見出して行かれるわけです。そして、そういうものが見出されたときには、どんどん話が進むんですね。

河合前掲書pp.52〜54より

この例と同じように、訪れた会員のご家族が子どもの問題に関する相談を持ちかけてきても、相談に応じる私は、訴えだけに目を向けるのではなくその裏にある真意は何かを常に意識している必要がある。訴えを熱心に聞くことによりやがて本当に重要なことが見えてくるのである。積極的に聞くということはAskすることではないListenすることである。この作業を繰り返すことが、クライエントが自ら答えを導き出す支援になるのである。

 河合前掲書p55に『「聴くこと」ほど怖いことはない』とあるとおり、カウンセリングはとても難しいことである。『本気で聴いたら悩みがこっちへ移る』からである。この「逆転移」の問題については、次回の研究レポートのテーマとしたい。


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引用文献

プロカウンセラーの聞く技術
2000.9.20 著者 東山紘久  発行所 創元社
河合隼雄のカウンセリング入門―実技指導をとおして―
1998.9.20 著者 河合隼雄  発行所 創元社

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