5 就職前の支援者によるジョブマッチを前提としない就職支援メソッドに関する研究について
5-1 ジョブマッチを行うタイミングについて(仮説)
街で中学生や高校生をみて数年後に就職して働いている姿を想像できるであろうか。自分自身のいまの職場で働いている姿・状態は、高校生・学生のときに想像していたことと一致しているであろうか。おそらくイメージできていないであろう。同様に、障害を持つ方がどのように就職するかは、施設で暮らしている姿からは類推できないのである。また施設で暮らす姿を見て就職できるかできないかを判断することもまた不可能なのである。
したがって就職していない時点において障害を持つ方が発揮している能力をもとにジョブマッチングをすることには大きな危険がある。むしろジョブマッチングは、入社前ではなく入社をしてから実施するものと理解すべきである。企業に対して「いますぐここで必要な仕事」をこなせる人材を提供するのではない。ジョブマッチとは「適材適所」のことであり、障害を持つ労働者を含めて社員全員補をどのように配置すれば最適の効果が得られるかを企業が主体的に現場ごとに検討していくことである。この企業主体の検討に対する支援が必要なのである。
以上が、本研究のスタート時点における仮説である、と同時に当法人で採用してきた障害者就職支援の着眼点でもある。
本研究では、障害を持つ労働者の意識調査及び障害者雇用企業の意識調査を通じて、障害者の就業率の向上に資するために当法人で採用してきた「就職支援メソッド」の効果を検証することとした。
5-2 障害を持つ労働者の意識調査から
本研究では、調査員が職場に訪問して面接による個別聞き取り調査を実施した。調査対象は、231名(男性69.70% 女性30.30% 平均年齢30.73歳)である。現在の職場での勤続年数は、3年以上が71名、1年以上~3年未満が49名、1年未満が77名、就労経験はあるものの現在無職が34名である。この勤続年数の層別にクロス集計をかけて分析した結果は、次のとおりである。
- 就職時に受けた就労支援の内容について ・ハローワークでの就労支援が全体の4割を超え、その比率は次第に高まりつつある。 ・就労支援事業所の支援、センターの支援を受ける割合も次第に高まりつつある(就労支援の効果と共にその役割もまた高まりつつある。)
- 特別支援学校等での支援が勤続につながる傾向が見られる。(支援方法が有効なのか、労働者が若年であるからなのかは不明)
- 仕事は楽しいか?
- 勤続年数が長いほど仕事を楽しく感じる割合は高い。仕事を楽しく感じさせる要素が重要であることは確実である。具体的にどのような場面で感じるかは5-5結果報告参照。
- ※仕事ではありながら、人との関係(教える・誉められる)の中で仕事へのモチベーションを得ていることが読み取れる。
- 会社の中で仕事が変わったことがあるか?
- 仕事の変化の経験は約半数である。
- 仕事の変化は勤続年数が長くなるにつれて増加する。
- 5-1項で示した仮説を裏付ける結果となった。就職後の適材適所により、就職時とは異なる仕事内容への異動が半数以上見られる。
- 会社の中で困ったことなどを相談できる相談者はいるか?
- 相談相手が会社内にいるとの回答は8割を超える。一方で現在無職の方の回答が6割であることから勤続(定着)のためには会社内に相談相手がいること(本人がいると感じること)が重要である。
- 会社以外で仕事を辞めたくなったときや働き続けるのがつらいと思ったときに相談できる方はいるか?
- 職場以外に相談者がいる割合と、勤続年数との関連に有意差は見られないが、現在無職の方にとっての相談者がいない割合は2倍に及ぶことから、職場以外の相談者の存在は、勤続のための大切な要素になる。パーソナルネットワークの活用が望まれる根拠となる。※それぞれの労働者に、5-5結果報告にあるような支援者がいるのかどうかを探っていくことで、パーソナルネットワーク票を整備していくことが可能になると思われる。
- 仕事の仲間は、仕事中あなたを助けて(守って)くれるか?
- 仕事仲間が自分を守ってくれる、という意識は勤続年数が高まるにつれて9割を超えるようになる。一方で現在無職の方は7割にとどまり、仕事中に助けてもらえなかったという意識する方は2割を占める。仕事仲間からの「協力」を感じるか否かが勤続(定着)のためのポイントとなる。協力されていると感じるきっかけを知ることによって、支援サポートの重要なタイミングを逃さない職場環境づくり(支援体制づくり)が可能になると思われる。
- これからもこの会社で働き続けたいと思うか?
- 今後も勤続し続けたいという意識は、勤続年数が高まるにつれて強まり、3年超の方はその9割が引き続き働き続けたいという意識を持っている。長く勤続している方に手厚い支援があったという結果には自動的にはならないものの、勤続年数が長いほど定着の意識が高まるので、定着支援は勤続年数が短いときほど手厚く行われる必要がある。 ・長く勤めるほどもっと長く勤めたいと思うようになるのは、事実であるが、働き続けたいという意識を高めていくためには具体的に何が必要かといえば今後の調査が必要になる。
- 会社の中で働いている時間の中で勉強する機会(研修会など)はあるか?
- 社内での研修の機会は約半数があると回答。勤続年数との関連に有意差は見られないものの現在無職の方と比較すれば、研修の機会は勤続のための重要な要素である。
- 今までに、休日や自分のお金を使って勉強したことはあるか?
- 休日を利用しての自発的な自己研鑽に努める割合は、勤続年数が長くなるほど高まる。研鑽を通じての達成感(あるいは作業スキルの向上)が勤続の要素である。
- 今後、時間やお金を気にせずに勉強できるとしたら何か資格などを取りたいと思うか?
- 資格を手にしたい欲求は、勤続年数が長くなるほど高まる。
- 休日や余暇を楽しむような趣味やサークルには参加しているか?
- 趣味活動等への参加割合と、勤続年数との関連に有意差は見られないが、現在無職の方の不参加割合は2倍に及ぶことから、余暇を過ごすメニューをもつことが勤続のための要素である。
5-3 障害者雇用企業の意識調査から(障害者雇用企業の声)
本研究では、障害をもつ労働者に聞き取り調査に協力された障害者雇用企業の障害者雇用担当者に対して同時に聞き取り調査を実施した。調査対象は、23社である。その集計結果は、次のとおりである。
- 障害を持つ労働者を雇用した目的は何か?
- 企業として社会に貢献するという使命感から障害者雇用をするという意識は法定雇用率を達成するという目的を超えて全体の7割を超える。
- その目的は現在達成しているか?
- 障害者雇用の目的が達せられたという回答は8割を超えている。
- 設問1の目的以外に得られた効果はあるか?
- 障害を持つ労働者を雇用してみて、新たな(別の)効果に気づいた企業は6割を超える。
- 採用前に期待していたことと、実際の働きぶりを比較して差異はあるか?
- 障害を持つ労働者の雇用前後の意識変化は6割に及ぶ。ただしうち2/11=18%はマイナス評価(ホウ・レン・ソウがしっかりとできない、能力を発揮してもらうのは難しい)であった。
- 障害者とともに働く社員の意識に変化はあったか?
- 障害を持つ労働者の雇用によって、他の社員の意識への影響があったという回答は、8割を超えている。
- 経営者の意識に変化はあったか?
- 経営者による直接回答ではないが、8割が変化ありと回答している。外部機関との連携の必要性を強調する意見が見られるので、連携体制を整備することが雇用継続のための重要な要素であると思われる。
5-4 障害者雇用マニュアル(企業向け)の構成
企業が、障害者雇用をするために必要となる情報は様々であるが、本研究(とくに意識調査の結果)で明らかになったことをもとに構成した。別冊『こうすれば雇用できる! 障害者雇用マニュアル ~障害者雇用へのルート~』は、障害者雇用に向けた企業開拓におけるツールとして活用することができる。
- 障害者雇用成功のためのポイント(企業インタビューを通じて明らかになったこと)
- 雇用継続のためのポイント(調査結果から明らかになったこと)
- 障害者雇用のためのサポート活用のポイント
- ジョブコーチ
- 助成金制度
- 障害者就業・生活支援センター
- 特別支援学校
- ハローワーク
- 就労移行支援事業所等(授産施設・作業所)
- 良いジョブコーチ・就労支援員の見分け方
- 採用プロジェクトチーム体制作りのすすめ
- 障害者雇用を企業文化とするために