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  4. 理事長挨拶

就労定着支援事業で実現すべきこと

社会福祉法人光明会 理事長 小 澤 定 明

平成30年度から始まる新事業・就労定着支援事業

平成28年5月に成立した障害者総合支援法改正法により、(1)施設入所支援や共同生活援助を利用していた者等を対象として、定期的な巡回訪問や随時の対応により、円滑な地域生活に向けた相談・助言等を行うサービス(自立生活援助)を新設する、(2)就業に伴う生活面の課題に対応できるよう、事業所・家族との連絡調整等の支援を行うサービス(就労定着支援)を新設する、(3)65歳に至るまで相当の長期間にわたり障害福祉サービスを利用してきた低所得の高齢障害者が引き続き障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合、障害者の所得の状況や障害の程度等の事情を勘案し、当該介護保険サービスの利用者負担を障害福祉制度により軽減(償還)できる仕組みを設ける等、障害のある方々への地域生活支援の充実が平成30年4月1日から図られることになりました。
 (2)の就労定着支援事業の創設については、当法人の諸施設・事業所で展開する就労移行支援事業と密接に関連します。福祉サービスを利用して一般就労した方の就労に伴う生活面の課題に対して、その就労の継続を図るために企業・自宅等への訪問等により必要な連絡調整や指導・助言等を直接提供するサービスで、現在の就労移行支援事業では就職後6月間は職場定着支援をすることになっていますから、その支援に切れ目なく続く就労定着支援が最大で3年間保証されることになります。
 もちろん、このサービスにあたっては、利用契約が必要であり、所得の状況に応じては利用料が発生しますので、あくまで一般就労した方の希望によることとなりますし、この3年間が経過した後(すなわち就労定着支援事業の次)は、現在も職場定着支援の主要な担い手である、障害者就業・生活支援センターに引き継ぐこととなります。
 この制度の詳細は、年が変わる頃には、よりはっきりとするでしょうが、現在は未確定の部分が多くあります。

永く勤めるために必要なこと

障害のある方が、一般就労であろうとも、福祉施設・事業所の場で働く福祉的就労であろうとも、永く働き続けることは大切なことです。
 働く理由はなんでしょうか。一般的には所得を増やし人生を豊かにするため、と見なされています。働いた結果に得られるものが現金だけであれば、働く理由は所得を得るため、と言えます。しかし、働いた結果得られるものは、お金だけでなく、経験・キャリア、知識・技術・技能、情報、ひらめき、資格、信頼・信用、人脈、責任感・貢献感、生き様、人生に仕事がある喜び等があります(残念ながら良い面だけではなく、同僚からの妬み、無視・冷笑を買ってしまうこともあり得ますが)。私はむしろ、
 お金以外に得られるものこそ「働く理由」の重要な真理を示すものであり、同時にそこにこそ、永く勤めるために必要なことの答えがあるのではないかと考えています。
 平成30年度から始まる就労定着支援事業の具体的な支援の中身を組み上げていく上でとても大切なポイントとなるでしょう。
 2017年度光明会経営方針では、2-1事業指針のなかで「人生は行動の連続である。行動の結果得られるものは、自らのビジョンにとって不可欠なもの(経験)であるからそこには失敗はない。失敗とは、挑戦から逃げて行動を避けることである。経験を積み重ねるために挑戦を繰り返す勇気が必要である。自らのビジョンに向かうことが成長であるから、行動する勇気を引き出すことが「人生指南」の中身である」と示しました。また、3-1-2勤勉(生き様の原点)の項では「何か新しいことに挑戦すると、まずは必ず失敗する。失敗すると、大人に怒られたり、責められたりする。もちろん子供にとって怒られるのはうれしいことではない。そうなると、怒られないようにするための手段は一つだけになる。それは、新しいことに挑戦することそのものをやめることだ。」「失敗の経験が少ない人はプライドが高くなる。そして、プライドが高い人間ほど「俺が失敗するわけにはいかない」と強く思うようになり、ますます挑戦する勇気をなくしていく」「挑戦する勇気を失った者は 、幸せな人生をも失ってしまう。」「そもそも失敗なんてものは存在しない。挑戦したことによって手に入る経験はすべてが財産だということがわかる。たくさん失敗してもいいから、今までの自分にできなかったことにどんどん挑戦してもらいたい。普通の人が失敗と呼んでいる出来事こそが、人生に感動や感謝、新しい出会いといった、幸せな人生を送る上で必要なものすべてを運んでくれるんだ。」と喜多川泰さんの『上京物語 僕の人生を変えた父の5つの教え』やぶるべき五つ目の常識の殻-失敗しないように生きる よりの言葉を紹介しました。
 経験こそが人生において最大の財産であることが分かります。永く勤めることが大切な理由は、経験がより多く得られるからです。いろいろな経験を積んでいただくことが大切なのに、失敗をさせないという一見、人に優しい支援は、本人にとっての貴重な経験の機会を奪うことになるのです。この視点を基礎にして就労定着支援事業のあり方を追求していただきたいと思います。

大切な顧客定義「お客様とは誰か」

 2017年度光明会経営方針では、2-2私たちのお客様(顧客定義)の中で、様々な能力のある方々が私たちのお客様であると定義しています。ただ、就職支援を所得保障の側面からだけとらえたモノの提供に留まる従来の支援スタイルからの脱却を図るためには「人生指南」というとらえ方が不可欠であることを確認しています。その上で「障害者雇用に真摯に取り組む民間企業もまた当法人のお客様である。就労移行支援事業を含め、求職者を労働者として紹介する事業のお客様は企業である。お客様である企業に対しては、後戻りややり直しができる安心感や具体的な支援から得られる安心感に基づく挑戦する勇気を「雇用支援」として定期的に提供していく。これが障害者の就職継続の支援(勤続支援)であり同時に企業に対しては長期雇用支援となる。顧客は企業であるから、就職継続支援・雇用支援は企業に対して提供するものである。」としています。
 このことから、就労定着支援事業は、福祉サービスを利用して一般就労した方が制度上の対象ではありますが、障害者雇用企業をお客様であると定義した上で、では、その障害者雇用企業が大切にしている価値観は、どういうものであるか、その価値の実現に私たち光明会の職員がどこまで応えられるか、といった検討も同時に追求すべき観点の一つなのです。

障害者の柔軟な働き方支援を視野に入れているか

 政府は「働き方改革実行計画」を平成29年3月に定め、国民全員がともに力を合わせて多様な働き方を追求しつつ社会に責任を果たしていく方向性が示されています。少子高齢化の社会変化が進む中、生産力を維持して将来の国民全体の生活を安心できるものにしていくために、一人ひとりが責任を果たさなければならないということでしょう。
 この計画の中で、柔軟な働き方がしやすい環境整備という項目が挙げられています。「テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる。副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である。我が国の場合、テレワークの利用者、副業・兼業を認めている企業は、いまだ極めて少なく、その普及を図っていくことは重要」「事業者と雇用契約を結んだ労働者が自宅等で働くテレワークを「雇用型テレワーク」という。近年、モバイル機器が普及し、自宅で働く形態だけでなく、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務といった新たな形態のテレワークが増加」「インターネットを通じた仕事の仲介事業であるクラウドソーシング(インターネットの普及により社外の「不特定多数」の人にそのような業務を外注するというケース。特定の人々に作業を委託するアウトソーシングと対比される・筆者注)が急速に拡大し、雇用契約によらない働き方による仕事の機会が増加」「副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない。労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」と説明されています。
 さて、このような時代が既に到来しています。就労移行支援事業等での就労支援にあたっては、このような柔軟な働き方を視野に入れているでしょうか。一般企業で働くこと、就労継続支援A型事業所で働くことのみならず、テレワーク、副業、兼業の組み合わせを検討することなく、例えば「通勤が困難だから」という理由で支援が止まることは許されない、と考えるべきでしょう。

LIFE SHIFT人生100年時代の到来に備えているか

 リンダ・グラットン・アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT』東洋経済新報社によれば、今までの人生設計は、22歳までの教育・65歳までの仕事・老後という3つのステージがありましたが、寿命が延び続ける今後は、22歳までの教育と、老後(これが100歳まで延びる)の間に、22歳から80歳までのマルチステージがあるものに変化するとのことです。教育が終わってから老後が始まるまでの間、今までは仕事だけでしたが、これからは、仕事をしたり、再度教育を受け直したり、起業したり、副業を持ったりと「1つの仕事を極める」だけでないライフスタイルが登場するということを提言しています。
 障害者の高齢化に対しては、介護が必要な高齢者も障害者もケアする「共生型サービス」が示されていますが、これとは別のアプローチで、障害のある方への人生設計支援が必要ではないでしょうか。
 65歳を過ぎたら、障害福祉サービスか介護サービスかという現存のサービスの枠組みの中でのあり方を模索するにとどまらず、例えば、65歳からの新規事業、新規就職、新規教育(入学)という選択肢を福祉施設・事業所は示せなければならなくなるでしょう。

障害者の働く場にAI(人工知能)が導入された後はどうするか

 単純作業や煩雑な計算、データ分析・統計作業などは、AIが得意とするところです。一方で、一瞬の閃きやユニークな個性が必要とされる創造的な職業や、決して数値化できない人の心を相手にする職業、人とのコミュニケーションスキルが必要とされる職業(いわゆる「人間的」な仕事)は、AIで代替することは難しいと言われます。今後数年~数十年でなくなる職業というニュースなどを時折、耳にします。今、障害者が一般就労で従事している作業はどうでしょうか。このような時代の変化を示す事実が指摘されている中にもかかわらず、何も手を打たないで漫然と従来と同じ就職支援をしているとすれば、それはよくないことです。

職業教育こそ就労支援の本義

 2017年度光明会経営方針1-4社会に勤労観(勤労を尊ぶ態度)を伝道する使命[就労支援の基本的理念]に示したとおり「光明会が「人生に仕事がある喜び」を提供し「仕事のある充実した人生」を創造する「人生指南」を事業の中心に置く本質的意味は、勤労観(勤労を重んじ勤労者を敬う態度)・職業観(あらゆる職業の意義を敬う態度)を育てることにある。就労意欲を保持するには、正しい勤労観・職業観を身につけることが不可欠であるからである。
 勤労観・職業観を育てる観点で支援全般を組み立てなければならない。職業そのものではなく、その仕事に生涯をかけたその生き方を真似たい、継ぎたいと思われる生き方を指南しよう。」「作業を通じて意欲と態度を身につけるための職場環境作り、工程分析・動作分析の実践の先に目的があり、工賃はその結果としての成果の一つに過ぎないのである。地域社会に広く勤労観と職業観を伝道することが、光明会の使命である。」
 日本の伝統の勤労観・職業観の伝道により、働くことをよろこびとする価値観を伝えること、すわなち職業教育こそが、就労支援の本義なのです。であるからこそ、就労定着支援事業もまた勤労を重んじ勤労者を敬う態度とあらゆる職業の意義を敬う態度を育てることが基本であり、就労定着支援事業で実現すべきことは、年齢やスタイルにこだわることなく、一生懸命に働くことは尊いことなのだという生き方を共有する人々が安心して暮らせる社会ということになるでしょう。